大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和58年(ネ)457号 判決 1985年7月19日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、控訴人において次のとおり法律上の主張を補充したほか、原判決事実摘示(これが引用にかかる原審訴訟記録中の書証目録、証人等目録の記載を含む。但し、原判決三枚目裏八行目及び四枚目裏一行目の各「三六〇万円」を「三三〇万円」と改め、同六枚目裏五行目及び一一行目の各「右約款の」の次に「第六章」を加える。)及び当審訴訟記録中の書証目録の記載と同じであるから、ここにこれを引用する。

(別件訴訟判決の参加的効力に関する控訴人の補充主張)

別件訴訟判決は、本件事故が本件自動車の自家用自動車保険普通保険約款第一章第一条所定の「所有、使用または管理に起因して」生じた対人事故に該当するかにつき判断していないから、この点に関しては参加的効力を生じない。自賠法三条の「運行によつて」生じたという点に関する右判決の判断は、同法条の基本理念に反する解釈に基づく誤りをおかしているから、内容的に無効であり参加的効力を生ずるに由ない。すなわち、自賠法三条の「運行によつて」生じた人身損害とは、自動車本来の目的、機能に即した運行に基づく人身損害を指し、本件事故のように自動車を凶器として使用、運転した結果人を殺傷した場合は、「運行」と「損害」との間に相当因果関係を欠くと解釈するが、同法条の基本理念に合致するというべきだからである。

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの本訴請求は原判決の認容する金額の範囲で正当としてこれを認容すべきであり、その余は失当として棄却を免れないと判断する。その理由は、次に補正、付加するほか、原判決理由と同じであるからここにこれを引用する。

1  原判決一〇枚目裏五行目の「右判決の認定・判断」の次に「(なお控訴人は、右判示になる自賠法三条の適用が同条の基本理念に反する法律解釈に立つが故に、確定判決の当該事項は内容的に無効である旨主張するが、右法律論には左袒できない。)」を、同面七行目の「請求原因1」の次に「の(二)及び」を、同面九行目の「たにせよ、」の次に「保険契約者及び記名被保険者たる訴外会社の犯罪行為によるものではないことからすれば、」を同行の「本件自動車」の次に「所有、管理又は」を各加える。

2  同一一枚目表二行目から同裏一行目までの抗弁1についての説示を次の通り改める。

「訴外会社(有限会社吉田土木)と控訴人との間の本件保険契約は、自家用自動車保険普通保険約款に基づいて締結されたものであるが、右約款第一章第七条<1>(1)には、保険契約者又は記名被保険者が法人であるときは、その理事、取締役又は法人の業務を執行するその他の機関の故意によつて生じた損害については控訴人はてん補しない旨の控訴人主張の免責事由が規定されていることは当事者間に争いがないところ、右にいう理事、取締役又は法人の業務を執行するその他の機関には、商業登記簿上の登記の有無に関係なく実質的に法人の業務執行機関たる地位にある者を含むものとしても、成立に争いのない甲第一号証、第四号証、乙第二号証の三七、三八、五二ないし六一、八〇、原審証人吉田利雄の証言によれば、訴外会社は土木、建築業を営むことを目的とする資本金一〇〇万円の有限会社であつて、訴外吉田利雄が代表取締役、妻さくよが取締役に各就任し(他に商業登記簿上取締役の記載はない。)、長男政雄外二名の常勤従業員及び二十二、三名の日雇労務者を雇用して右営業を行つていたところ、右会社はいわゆる吉田利雄の個人会社であつて、同人が名実ともに代表取締役として会社業務を執行し、実質的にその経営を独断専行しており、吉田政雄は右利雄の長男であるところから労務者等から「専務」又は「専務取締役」などと呼ばれていたが、利雄の下で使用人として工事現場の監督をしていたにすぎず、会社の資金関係や経営上の業務執行の意思決定にまで参画していた者でないと認められ、吉田政雄が控訴人のいう実質的な会社業務執行機関たる地位にあつたとは到底認められないので、右政雄は前記約款上訴外会社の業務執行機関にあたるとはいえないから、控訴人の右免責の抗弁は採用することができない。」

3  同一一枚目裏三行目の「三月五日」を「三月九日」と改める。

二  よつて原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 輪湖公寛 小林啓二 木原幹郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例